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本来は別の本を紹介する予定だったが、この本をうっかり見つけてしまい土曜の休みを一日潰して一気に読んでしまった。恐らく二十年ぶりぐらいに読むのだが、傑作という感想に揺るぎは無かった。

密室で殺された画家が遺した手記には、6人の処女の肉体から完璧な女=アゾートを創る計画が書かれていた。彼の死後、6人の若い女性が行方不明となり肉体の一部を切り取られた姿で日本各地で発見される。事件から40数年、未だ解かれていない猟奇殺人のトリックとは!? 名探偵・御手洗潔を生んだ衝撃のデビュー作、完全版!

1981年発表の島田荘司のデビュー作にして島田氏にとって(現時点での)最高傑作と呼ぶのにふさわしい本格推理小説です。

エキセントリックな探偵である御手洗潔が40年以上前に起こった殺人事件を解決するのですが、当時としては、そして僕が最初にこれを読んだ20年以上前には衝撃的なトリックであり、今なおそれは色褪せていないと、今回再読した時に再度思った次第です。

トリックがトリックだけに非常に話しにくいのですが、読了後の切なさが際立っているのも特色です。このトリックをこういう話で纏める島田氏の構想力は素晴らしいものがあります。その後の傑作と誉れ高い「異邦の騎士」や島田荘司の代表作の一つである「奇想、天を動かす」などにも受け継がれているのですが、デビュー作がやはり素晴らしいと今更ながら思った次第である。

島田荘司の作品の電子書籍化は始まったばかりであるが、既に絶版となったものもあるので、どういうラインアップになるか楽しみである。

2回目は旅行ガイド本の紹介。しかも鉄っちゃん予備軍に向けた本を紹介。

 京阪沿線で育った鉄ちゃんアナウンサー羽川英樹の鉄道漫遊記。昭和のオヤジたちのシアワセを求める関西列車旅。JR、関西大手5社、中小私鉄各路線の蘊蓄から、とっておきのB級グルメまで鉄道が楽しくなるガイド。安上がりでノスタルジックな列車の旅、温泉情報、旅館案内も万全。

関西に住んでいたら知らない人はいないフリーアナウンサーの羽川英樹の鉄道旅のコラム本です。

18切符の紹介から関西の鉄な人なら思い入れがある新快速や京都駅などのコラム。そして関西5大私鉄の楽しみ方など読み所が色々あるのですが、この本のハイライトとなるべきは、最終章の「関西・中小私鉄の旅」ではないだろうか。

「関西・中小私鉄の旅」は関西私鉄を観光で回りたい人にはバイブルとなるべき丁寧な解説で、特に自分の地元である滋賀の二つの私鉄である京阪大津線と近江鉄道について、知らなかったことが多く載っており、羽川氏の知識の豊富さ、そして鉄道に向ける愛情が伺えます。

専門的な知識についても平易な表現で丁寧に解説しており、ヘビーなマニア向けというより、少し鉄道に興味を持った人にこそ読んで欲しい内容となっております。そして自分にとっても、羽川氏のような文体で旅行記を書けたらいいなと参考になるものがありました。

せっかく自分のブログが復活したので、本のレビューも書いていこうと思っているのですが、ただ本のレビューを書くだけで無く、電子書籍(主にamazon kindle)で入手できる書籍からレビューをしていこうかと思っています。ただ著名な本や話題の本のレビューを書いても仕方ないので、ちょっとマイナーな良書を拾っていくことにします。

まずは樋口有介のデビュー作となる「ぼくと、ぼくらの夏」からにします。

 


高校二年の気だるい夏休み、万年平刑事の親父が言った。「お前の同級生の女の子が死んだぞ」。偶然のことでお通夜へ出かけたが、どうもおかしい。そして数日もしないうちに、また一人。ぼくと親しい娘ではなかったけれど、可愛い子たちがこうも次々と殺されては無関心でいられない。担任の美人教師とやくざの娘で心ひかれる少女と力を合わせて、ぼくは真相を解きあかそうとこころみる。ほんのりと大人びた少年少女が体験する鮮烈な心の揺れを描き、開高健氏に絶賛された都会派青春小説。

 


1988年の第6回サントリーミステリー大賞読者賞でデビューを飾った樋口有介であるが、遅筆であることから、世間的にあまり知られていないのが惜しい作家である。推理小説家ではあるが、この作品以降もあまりトリックを重視する作風では無く、90年代に吹き荒れた新本格推理ブームで既に取り残された感があるのかもしれない。

だが個人的にはよく練られた文章と、引っかかるところがなく気軽に読める作風から、5年ぐらいのスパンで読みたくなる【青春】小説である。

まずいきなり個人的なことをいえば1988年に高校二年生といえば、まさに自分と同じである。だが残念ながら自分が高校二年生の時は、この主人公のようなニヒルなすかし具合も、美人の女教師も、きつめな少女も、身の回りにいなかった。真面目な文学青年として深夜ラジオで伊集院光を聴いて偏差値を落としていたような気がする。だからこそいえるが、正直にいえば、この主人公はちょっと一昔すぎて、大人の思考が見え隠れするのが残念だ。つまり「こんな高校二年生いないだろう」ってのが最初の感想。

あと一つ突っ込み入れたくなるのが、トリックらしきものがないミステリーの割には色々織り込みすぎており、特に美人教師の設定がもったいないような気がした。

上記二点以外は、むしろ好意的に見たい。主人公と少女との出会いも自然だし、最後の盛り上げ方も推理小説として合格である。主人公と少女のやり取りは正統な青春小説として楽しめた。

携帯電話やスマートフォンが普及した現在では、この小説は成立しないなと思いながら、1988年が舞台の青春小説として非常に楽しく、そして切なく読める作品となっている。